最初の仕事は、歯科技工士でした。
小さなものを、ひたすら手で作る。
その手仕事の感覚は、今の串打ちにも生きていると思います。
二十代の終わりに、焼鳥の道へ。
本郷の「やき龍」で十三年、店長として店に立ちました。
その後、新宿御苑前の「鶏福」で八年。
ずっと、炭の前にいました。
紅ふじ鶏の旨みを、塩で引き出す。
ただそれだけのことに、二十年かかりました。
そして今、自分の店で、その答えを出しています。
三十代の頃、思い悩んでいた時期がありました。
毎日炭の前に立ちながら、自分の道がよく見えなくなっていた。
そんなとき、たまたま手に取ったのが『野ねずみハツラツ消防士』という絵本でした。
谷内六郎さんの挿絵に、心がふっと軽くなったのを覚えています。
絵を眺めるだけで、深呼吸ができるような感覚。
それから絵本が好きになりました。
少しずつ、谷内六郎、角野栄子、上橋菜穂子。
気に入った一冊一冊を集めるうちに、棚に収まりきらないほどになって。
自分の店を持つときに、思いました。
この絵本たちを、店に置きたい。
串と串の合間に、ふと手にとってもらえたら。
その夜の話の種になりますように。
カウンター九席と、奥のテーブルがひとつ。
小さな店です。
だからこそ、一人ひとりに、ちゃんと向き合いたい。
一本の串を焼く時間、一杯の酒を注ぐ時間。
その短い時間のなかで、何かが少しでも軽くなれば。
塩で、鶏で、炭で、絵本で。
ささやかな福を呼ぶような時間になればと、願っています。
福を呼ぶ、
一串と一杯。